カスハラ対策のやり方とポイント
今回はハラスメントの1つ『カスタマーハラスメント』、通称カスハラについて取り上げていきます。
✅会社でカスハラが発生して困っている
✅カスハラの対策をしたいと考えている
✅カスハラの対策をするように言われたけどやり方が分からない
✅そもそもカスハラって……?
上記のようなお悩みを抱えている方に、厚生労働省から出ているカスタマーハラスメント対策企業マニュアルを参考にカスハラ対策のやり方やポイントについて解説していきます。
※こちらの記事は2023年3月現在のものです。
カスハラ対策をしっかりとすることで、職場環境が改善されたり、離職率を低下させたり、従業員とのトラブルを防ぐことが出来たり、様々な効果が期待できます。
この記事を参考に対策を行い、カスハラに悩む必要がない職場を作りましょう!
もくじ
🔷カスハラとは?
カスハラとはカスタマーハラスメントの略称です。
クレームすべてをカスハラと呼ぶわけではなく、クレームの中でも悪質・理不尽なものをカスハラと呼ぶことが多いのではないでしょうか。
会社の方針によってどこまでお客様に向き合うのかは違うため、カスハラの定義は明確にはされていません。
そのため、どこまでを正当なクレームとして、どこからをカスハラと判断するかをしっかりとあらかじめ会社で決めておく必要があります。
もし、決めるのが難しい場合は、厚生労働省の出しているカスタマーハラスメント対策企業マニュアルで以下のように書かれているので参考にしてみてください。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
出典:厚生労働省 カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
分かりやすくすると、
①クレーム・要求の内容 ②それを実現する手段
この2つが常識的な範囲を超えていて、従業員の就業環境が悪くなるもの。
上記のようなことをカスハラとして考えているようです。
①②を総合的に考えて常識的な範囲を超えているか判断するため、①のクレームの内容が最もらしくても、②が暴言を吐いたりなど常識的な範囲を超えている場合は、総合的に判断してカスハラかを考えていきます。
あくまでもこれはカスタマーハラスメント対策企業マニュアルで示されているカスハラの考え方ですので、すべての会社に当てはまるとは限りません。
自社でしっかりとカスハラの定義を決めておきましょう。
🔹カスタマーハラスメントだと思われる例
🔹1時間を超える長時間の拘束、居座り
例:食品小売店で購入した果物が腐っていて返金をしてもらった後、小一時間程そのことについてレジに居座って店員にクレームをつける。
🔹頻繁に来店し、その度にクレームを言う
例:ファーストフード店で商品の入れ忘れが発生し、返金で対応した。そのお客様がそれ以降に来店する度にミスを発生させた従業員に対して、何かと理不尽な理由でクレームをつける。
🔹大声での恫喝、罵声、暴言の繰り返し
例:割り込みをしたお客様に対して従業員が待機列に並ぶように促した。お客様は激昂し、従業員に対して「割り込みをしていないのに割り込みをしたと言われた!」「死ね!」「俺が店長だったら辞めさせてる!」などの暴言等を繰り返した。
🔹SNSやマスコミへの暴露をほのめかした脅し
例:理不尽な要求をしてくるお客様に毅然として対応したが、「そんな態度を取って良いのか?SNSなどに拡散するぞ」などと言われた。
🔹優位な立場にいることを利用した暴言、特別扱いの要求
例:「俺はこの店の常連だぞ!俺が来たら値引き時間前の商品でもレジで値引きしろ!」「俺はこの会社の株を持ってる。他の客と区別して対応しろ!」などと要求してくる。
🔹インターネット上への投稿(従業員の氏名公開)
🔹会社・社員の信用を毀損させる行為
例:インターネットの掲示板やSNSなどに「●●の●●店にいる▼▼ ▼▼はマニュアル対応しかしない。ゴミ。」と書き込みをされた。
🔹言いがかりによる金銭要求
例:「買った野菜が腐ってたせいで、家族の夕食を作るときに手間が掛かったから、夕食代金と手間賃として1万円払え。」と言われた。
🔹特定従業員への付きまとい
例:お客様が深夜の時間帯に働く女子大生に無理矢理連絡先を渡したり、閉店後に店の前で待ち伏せして「駅まで送ってあげるよ♡」と言って無理矢理ついて来ようとした。
🔹事務所(敷地内)への不法侵入
例:「店長を出せ!」というお客様に店長が不在のことを伝えると、「帰ってくるまでここで待つ!!」と言って、従業員の制止を振り切って関係者以外立ち入り禁止の事務所に無理矢理入り込んで椅子に座って動かない。
🐼ポイント🐼
殴る、蹴るなどの暴力行為は、カスハラだけでなく犯罪になる可能性があるものです。毅然とした対応をしましょう。
上記以外にも、以前に自社でカスハラに該当しそうな事例がないかを予め集めておくことでより自社に合ったカスハラ対策を行うことができます。
参考:厚生労働省 カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
🔷カスハラ対策のやり方
STEP① カスハラの定義を決め・基準を明確化
STEP② 発生時の対応フローの作成
STEP③ カスハラ対応マニュアルの作成
カスハラ対策は上記の手順で行います。1つ1つ確認していきましょう。
🔹STEP① カスハラの定義を決め・基準を明確化
まず、自社に合わせてカスハラの定義を決めて、この基準を超えたらカスハラ対応に移行するという基準を明確にします。
曖昧な状態だと、従業員もどこまでが我慢するべきクレームなのか、どこからがカスハラとして対応しなければいけないか分からなくなります。
対策した後の運用も考えて、しっかりと定義と基準を明確にしておきましょう。
【例】
●カスハラ定義
お客様からのクレームの中で、会社の商品・サービスに関係があるない問わず、そのクレームの手段が常識的な範囲を超えていたり、従業員が恐怖を感じるものをカスハラとする。
また、従業員が恐怖を感じないとしても他のお客様に害がある場合もカスハラとする。
●カスハラとして認定する基準
以下のいずれかに当てはまる場合は、カスハラ対応フロー・マニュアルに沿って対応する。
①暴行・脅迫・不法侵入等、犯罪の可能性がある場合
②従業員が恐怖を感じたり、業務に支障がある場合
③商品・サービスに関係がなく、説明義務を果たしても2回以上同様のクレームが繰り返された場合
④商品・サービスに関係がある内容で、謝罪や商品交換・返金などを行い、説明義務を果たしても3回以上同様のクレームが繰り返された場合
⑤1時間以上の居座り・電話等により従業員が拘束され、業務に支障が出た場合
⑥その他、上記に該当しなくても今までにカスハラと判断して対応した事例がある場合
🐼ポイント🐼
基準を具体的にすることで、人によって対応が変わることをできる限り抑えていきます。
あらかじめ、従業員にカスハラについてのアンケートを取ると、基準がより現場に近いものになるためおススメです。
顧客への対応方針(顧客が満足するまでトコトン付き合う!など)が決まっている場合は、それも合わせて整合性が取れるように定義・基準を作成していきましょう。
🔹STEP② 発生時の対応フローの作成
次にカスハラが発生した時のフローを作成していきます。
フロー自体は凝らなくても最終的に「カスハラ対応に移行する」「通常のクレームとして対応」に分岐すれば問題ありません。
このフローは作らなくても運用は可能です。
しかし、カスハラを通常のクレームとして処理することを防いだり、カスハラに遭遇して慌ててしまう従業員のお守りとして、このフローを作成して職場に置いておくことに意味があるため、作成することをおすすめします。
このフローはカスハラなのか判断するという目的よりも、「人によってカスハラになるのか、ならないのか変わってしまう事態」を防ぐことが目的だと考えると良いかもしれません。
🐼ポイント🐼
起こった内容がクレームなのかカスハラなのかに分けることが出来れば問題ありません。難しく考えすぎないようにしましょう。
🔹STEP③ カスハラ対応マニュアルの作成
最後にSTEP2で「カスハラ対応に移行する」となった場合の対応マニュアルを作成していきます。
自社での事例があればその事例を元に、事例がない場合は厚生労働書のカスタマーハラスメント対策マニュアルの行為別の対応例などを参考に、「こういうカスハラをされたら、このように対応する」という内容で作成すると対応者が使いやすく、おススメです。
理想的な対応ばかりになってしまい現場では運用できないとなっては全く意味がありません。
マニュアルを作成する際は、従業員へのヒアリングなども行い、現実的に対応できるように現場に寄り添ったマニュアル作成が必要となります。
🐼ポイント🐼
カスハラ対応と聞くとお客様に対しての対応ばかりに目が行きがちですが、カスハラを受けた従業員へのケアまで盛り込むのがポイントです。
従業員のため、会社のためのカスハラ対策であることを常に忘れないようにしましょう。
このSTEPで作成するマニュアルは、現場で対応する従業員用と管理職用で2種類作成するのも大事になってきます。
🔷対策をするだけではダメ
🔹運用
前述のカスハラ対策のSTEP1から3までを実践すれことでカスハラ対策が完了します。しかし、作成しただけでは意味がありません。
しっかりと運用が出来なければ「作っただけ」で終わってしまいます。
① 周知・徹底
② 定期的な研修
③ 改善
この3点がカスハラ対策を運用していくためには大事です。
🔹周知・徹底
会社のカスハラについての考え・対策や方針、マニュアルやフローについての周知・徹底が必要です。
「マニュアルの存在を知らなかった」「とりあえず作っただけだと思ってた」そう思われないように、従業員への周知を忘れないようにお気を付けください。
マニュアルやフローが存在するだけという形にならないように、マニュアルを徹底して欲しいことも忘れずに伝えましょう。
🔹定期的な研修
周知・徹底をしても、日々の業務で忘れていってしまったりすることもあります。運用開始後もなかなか実践できない従業員の方が出てしまったり、せっかく作った対策が形骸化してしまうこともあるかもしれません。
そのような事態を防ぐために定期的な研修を行い、実際にカスハラだと思われるクレームを受けた場合は対応できるように意識づけをしていきましょう。
1から研修内容の枠組みを考えるのが難しい場合は、下記の例を参考に自社に合わせて研修内容をカスタマイズしていくことをオススメします。
●悪質なクレーム(カスタマーハラスメント)とは(定義や該当行為例、正当なクレームとの相違)
●カスタマーハラスメントの判断例(判断基準やその事例)
●パターン別の対応方法
●苦情対応の基本的な流れ
●顧客などへの接し方のポイント(謝罪、話の聞き方、事実確認の注意点等)
●記録の作成方法
●各事例における顧客対応での注意点
●ケーススタディ
出典:厚生労働省 カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
🐼ポイント🐼
現場でお客様の対応をする従業員向けの研修、その報告を受ける上司向けの研修の2種類を実施した方がそれぞれのニーズに合わせた実用性の高い研修を行えます。
🔹改善
実際に運用してみて不具合などが発生する可能性もあります。
SNSを利用したカスハラなど時代によって発生事案の質も変わっていくかもしれません。
発生事案や実際に運用してみての意見を集め、定期的に対応を考え見直していくことも忘れないようにしましょう。
カスハラ対策に積極的に取り組んでいる会社の中には、事案が発生する度に見直している会社もあるそうです。
自社での発生事案が少なくマニュアルや対策が具体性に欠けてしまう場合は、割り切って上記のように事案が発生する度に改善するというやり方を検討してみても良いのではないでしょうか。
🔷カスハラが与える影響
🔹会社へのデメリット
・時間の浪費(クレームへの現場での対応、電話対応、謝罪訪問、社内での対応方法の検討、弁護士への相談 等)
・業務上の支障(顧客対応によって他業務が行えない 等)
・人員確保(従業員離職に伴う従業員の新規採用、教育コスト 等)
・金銭的損失(商品、サービスの値下げ、慰謝料要求への対応、代替品の提供 等)
・店舗、企業に対する他の顧客等のブランドイメージの低下
出典:厚生労働省 カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
ここで次のような一例を考えてみましょう。
お客様が商品を購入した。
その商品に不備があったのか、店舗で従業員を30分程度怒鳴りつけた。
帰宅後クレームの電話を入れ、従業員が30分対応する。
代替品を持って1時間かけてお客様の家に行く。
そこで謝罪した後30分罵倒された。
【 発生したコストなど 】
店舗の対応:1人30分の人件費
電話対応:1人30分の人件費
謝罪訪問:1人1時間30分の人件費+代替品の代金
上記に加えて従業員の離職や精神面での負担のリスクなど。
ここで重要なのは、あらかじめクレーム発生時の流れと対応方法をカスハラ対策として行っておけば被害を減らすことができるということです。
クレームに上手く対応すると、お客様は一生のお客様になってくれるかもしれません。
カスハラの場合は、クレームと同様に一生のお客様になってくれるかもしれません。ただ、そのお客様は従業員に対してカスハラをし続けるかもしれない大きなリスクがあることを忘れないようにしましょう。
「この前は〇〇してくれた」「お前の上長には〇〇って言ってる!」などカスハラが常態化する可能性もあります。
上記のことから、カスハラ対策をしないと会社にもデメリットが大きいことが分かるのではないでしょうか。
🔹従業員へのデメリット
顧客からの著しい迷惑行為に関する相談は、パワハラ(48.2%)、セクハラ(29.8%)に続いて第三位(19.5%)です。
では、実際カスハラを受けた従業員にはどのような影響があるのでしょうか?
①怒りや不満、不安を感じた
一度だけ経験した人:54.3%
時々経験した人:74.1%
何度も繰り返し経験した:79.4%
②仕事に対する意欲が減退した
一度だけ経験した人:34.8%
時々経験した人:51.5%
何度も繰り返し経験した:57.1%
③職場でのコミュニケーションが減った
一度だけ経験した人:16.6%
時々経験した人:8.0%
何度も繰り返し経験した:17.1%
④眠れなくなった
一度だけ経験した人:14.1%
時々経験した人:11.4%
何度も繰り返し経験した:21.2%
⑤会社を休むことが増えた
一度だけ経験した人:5.5%
時々経験した人:4.2%
何度も繰り返し経験した:5.9%
上記のようにカスハラを1度受けただけでも半数近くが「怒りや不満・不安を感じた(54.3%)」「仕事に対する意欲が減退した(34.8%)」という影響が強く出ています。
何度も受けた人には「眠れなくなった(21.2%)」「会社を休むことが増えた(5.9%)」「通院したり服用をした(8.8%)」など深刻な影響も出ています。
カスハラはお客様次第な面もあるため、完全に0にするというのは難しい部分はあるかもしれません。
ですが、適切な対策やアフターフォローをすることで上記のような従業員への影響は防げるのではないでしょうか。
🔹他のお客様へのデメリット
カスハラが会社や従業員に深刻な影響を及ぼすものです。
ですが、その影響は会社や従業員だけでは済まず、他のお客様に及ぶ場合もあります。
・現場に居合わせたお客様が不快な思いをする
・対応に時間を取られるせいで満足なサービスを受けることができなくなる
・ブランドイメージの低下
・他にも「じゃあ自分も……」と他のカスハラを誘発
上記のような可能性があり、他のお客様にとってもカスハラにはデメリットしかありません。
🔷まとめ
🔹カスハラとは…
①クレーム・要求の内容 ②それを実現する手段
この2つが常識的な範囲を超えていて、従業員の就業環境が悪くなるもの。
例)1時間を超える長時間の拘束・居座り、頻繁に来店し、その度にクレームを言う など
🔹カスハラ対策のやり方
STEP① カスハラの定義を決め・基準を明確化
STEP② 発生時の対応フローの作成
STEP③ カスハラ対応マニュアルの作成
🔹その後の対応
① 周知・徹底
② 定期的な研修
③ 改善
🔹影響
従業員の仕事に対する意欲が減退したり、企業の人件費やブランドイメージの低下など様々な悪影響を及ぼす可能性がある。
🔷最後に
大企業もカスハラ対策を始めているという情報をネットで目にする機会も増えてきました。
従業員を募集しても中々人が集まらないという話もよく聞きします。
そういう事業所ほど、カスハラ対策だけに限らず従業員が安心して働き続けることができる職場環境の整備をしっかり行い、従業員を大事にする取り組みが大事になってくるのではないでしょうか。
もし、「対策が難しい」「よく分からない」という場合は、是非お気軽にご相談ください。
弊事務所ではカスタマーハラスメントに関するコンサルティングも行っています。